山陰まんなか観光局

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San`in Mannaka Tourism Bureau presents [COCOBITO no TSUDURI]
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工房のつの器

さんいん窯元見学 出雲市多伎町「工房のつ」

出雲市多伎町で2002年から開業されている「工房のつ」さんへお邪魔してきました。
こちらでは工房とギャラリーが併設されていて、展示されている作品はもちろん購入もできます。
ただし、常に営業されているわけではありませんので、事前に連絡をしてからご来店されるのがおすすめです。

陶磁器に限ったことではないですが、特にハンドメイドの商品はそのものを見て購入するだけではなく、実際に作家さんと話しをしながら気に入ったものを選ぶと買い物がより楽しくなります。
ネット通販でポチッと買うのも便利でいいですけど、たまには製作現場まで足を運んで、その場所でしか体験できない空気感に身を委ねるのも良いものです。

さて、「工房のつ」は磁器を作っている窯元です。
展示販売されている磁器の色合いは大きく3種類ありました。

工房のつ

左から順に
・やや青みのある青白磁
・染付(藍色の絵付け)
・白磁(アイボリー調)

いったい、どうやって違いを出しているのでしょう。
何はともあれ、作品の数々を見ていきましょう。

「工房のつ」野津明美さんのプロフィール

・出雲市湖陵町生まれ
・愛知県立窯業高等技術専門校修了
・藤井憲之氏に師事
・多伎町にて「工房のつ」として独立


気になった器その①~マットな感触と淡い柄

工房のつの器

最初に目に留まったのがコチラ。
上部は艶のある白磁、その下の大部分は少しザラッとした感じの表面。柄は水に何かが溶けているような、あるいは流れの速い雲のような、法則性のなさそうな自然なデザインです。
「これどうやって描いているのですか?」と質問すると、「スポンジで叩いているんですよ」なるほど~。そして、釉薬を付けずに焼くと、このようなマット感のある表面になるのだそう。

工房のつの器


気になった器その②~アイボリー調の器

工房のつの器

では、お次はコチラ。

このアイボリー調の器は、前回ご紹介した「自家焙煎 珈琲店 蒼」さんで使われているのを見て、「素敵な器だな~」と感じていて、今回こちらの工房へお邪魔させていただいたきっかけの色合いでもあります。
優しい温かい感じ、この色合いの器で食卓を囲むのを想像すると、なんだかほっこりした気持ちになりました。

どうやってアイボリー色ができる!?

青白磁と白磁(アイボリー調)をどのようにして作っているかと言いますと……
なんと釉薬は同じものを使っているんだそう!!
※染付の器には絵を活かすため透明釉を使います。
窯で本焼の際『酸化』または『還元』どちらの方法で焼くかで決まります。


【ここで問題】アイボリー色は『酸化』or『還元』どちらでできるのでしょうか?


『酸化』とは
酸化焼成は窯内へ空気(酸素)を取り込むようにして、窯内の空気を循環させます。すると、新鮮な酸素が常に入ってきますから、磁土や釉薬の金属要素が酸化により黄色味になります。

『還元』とは
還元焼成は逆に酸素(の供給量)を少なくし、不完全燃焼を起こし、窯内を一酸化炭素の多い状態にします。この一酸化炭素が、磁土や釉薬にわずかに含まれた鉄分として反応して青みがかかった色合いになります。


【正解】アイボリー調の器は『酸化』で作られています!!


磁土や釉薬の金属要素が酸化により黄色味になる→→→アイボリー色に変身♬

逆に『還元』で青白磁や染付の器ができます。
絵付けをした器は、素地をより白くするため還元で焼き上げるということ。

お話を聞きながら、なんだか理科の実験みたいですね、と思わずポロッと漏らしてしまいました。


絵付けって簡単なのかと思っていたら意外と難しい!!

工房のつの器

工房の中も見学させてもらえることになり、展示販売スペースから窯のある製作現場へ移動です。ちょうど次の作品に向けての、花のスケッチをされているところでした。
そこは素焼きの器や様々な道具類が置いてあり、職人のザ・仕事場という感じで男子としてはワクワクする空間でした。

工房のつの工房の様子
工房の様子

野津さんは下絵付けの技法で器にデザインを描いておられました。植物の葉を濃淡のグラデーションをつけて描かれています。
「どうやって濃淡をつけるんですか?」と伺ったところ……ちょっと試しにやってみますか、と思わぬ展開に。

絵付けに使う道具と材料は、筆、呉須(絵の具)、水、素焼きの器。

工房のつ絵付けの様子

①呉須に水を加えて適当な濃さにします。

②次いで筆全体にその呉須を含ませ、その後水の入った容器に筆先だけをつけて少し水を吸わせます。

工房のつ絵付けの様子
工房のつ絵付けの様子

③<ここからがポイント!!>素焼きの器へ書いていきます。
筆の置き方が意外と難しいのです!!書道とは反対の動かし方と言えばいいのでしょうか。筆の根元に近いところから置くのではなく、器の表面に対して筆先を釣り竿がしなるような感じで、重力に従うように筆先を地面に向けて下げます。そっと器の表面に筆先を置くと、まずは水を含んだ薄い色がつきます。
そして、そっと動かしていくと、徐々に水分が減り呉須の濃い色が現われてきます。

まずは野津さんの手本を見ます。
なるほど、そのようにして葉っぱのグラデーションが出来ているのだと思い、さぁ私の番です。そうっと筆先を器に置いたつもりが、ばぁぁっと水が広がっていきます。(思った以上に難しかった!!)

工房のつ絵付けさせていただいた様子

焦って筆をゆっくり動かすも、水面の波紋のように筋がついてしまい滑らかなグラデーションにはなりません。やはり一朝一夕にはいかないものですね。
野津さんご本人曰く、絵はあまり得意ではなかったようです。しかし、染付の教室に通った際に「向いている」と言われて、絵付けをするようになったとのことでした。

工房のつ染物の器

絵付けのティーカップの器、とても素敵だなと拝見していたところ、やはり熱烈なファンのお客様がいらっしゃいました。そんな常連の皆さんに喜んでもらえる絵はどんなものがいいだろう、と新作に挑戦するための励みになるとお話されていました。

浅いお皿~深いどんぶり皿まで、同じ石膏型で作れる!

工房のつ石膏型

「工房のつ」では様々なサイズで形状も多様な食器が作られていますが、その成型に一役買っているのが、このお手製の石膏型です。
ここに被せるように磁土を乗せて成型するんです、と。
この所々にある黒い印はなんですか?と尋ねると「ここで器の高さ(深さ)を調整することで、一つの石膏型で複数の器に応用できるのです」ということでした。

工房のつ石膏型

実にコスパの良きことです。それと野津さんのこだわりの一つに、高台(こうだい)を付けることと仰られましたが、なんとその高台用の型もありました。

工房のつ高台

高台がないと、置いたときに接地する器の裏側に釉薬がかけられません。磁器は、素地が白く汚れが付きにくいようにできるだけ釉薬をかけています。

窯も見せていただきました

工房のつ窯

工房の最奥の部屋には窯(ガス)が鎮座しています。

扉の下からは2本の金属製のレールが伸びており、台車を前後に動かせます。そのため、
窯詰めの際に無理な体勢で作業する必要がなく、身体への負担が少ないとのことでした。

工房のつ窯

【ここで問題】さて、磁器は陶器に比べて高い温度で焼成されます。どれくらいの熱さでしょうか?


工房のつ窯

【正解】一般に1,280℃前後です。


「工房のつ」では、1,250~1,260℃で焼き上げています。
もう想像の域を超える温度ですが、ここまで高くても10℃前後に変えたりするだけででき上がりが違い、「窯たきには毎回気が抜けない」と話されていました。

新たな需要!?大人用小さいお椀

工房のつお茶碗

以前は、男性、女性、子供用とサイズを決めて作っていました。しかし求められる大きさは人それぞれ。今ではわざと少しずつサイズを変えて作るようにしています。

あるお客さんから、「病気で食べられなくなり、小さいサイズのお茶碗を探しています。ただ、探しても子供向けのデザインばかり。大人向けの絵柄のものが欲しいのですが……」と相談されたことから、子供サイズの茶碗に、大人用で描いているデザインを用いて作るようになりました。
確かに小さなお茶碗は、子供用が多く販売されているかも……大人っぽい絵付けのお茶碗が欲しい方は多くいらっしゃるのかもしれない……今後新たな需要にもつながる器ですね!!と、会話が弾みました。

工房のつお茶碗

大雑把な私は、大は小を兼ねるの作戦で、普通茶碗に少なめでご飯を盛ればいいや、と思ってしまいますがこんな発想はダメですね。
見た目は食欲と味わいに影響します。茶碗のサイズを小さくすることで、ご飯の量は減らせても、見た目はしっかり盛れている感が出ます。
茶碗はほぼ毎日使うもの、こういう感覚は大切にしないといけないなと改めて感じました。

 

私たちが今回お迎えした器はこちら!!

工房のつシチュー皿

最後に私たちが買った食器をご紹介します。
このアイボリー色のシチュー皿です。優しい色味と、主張は少ないけどデザインとして可愛らしさを演出しているドット柄。
そして、持ってみると軽い。軽さも選ぶ上での大切なポイントです。
シチューはもちろん、お茶漬けとか、煮物とか、いろんな料理で活躍が期待されます。
電子レンジ使用OKとのこと!!(※必ず壊れないというわけではありません)
陶器の器などは使用不可のものもあるので、とても嬉しい!現代人にとっては重要なポイントですね。

取材をしてみて

工房のつ

今回、初めて白磁の工房へ取材でお邪魔させていただき、素人の私たちにも丁寧に教えていただきました。
2時間弱お話を聞いただけではまだまだ分からないことや勘違いして認識していた点もあり、記事の内容は野津さんに確認していただき修正も入れていただきました。
快く取材や記事の確認などお受けいただき、大変感謝しております。

工房のつ
工房のつ
島根県出雲市多伎町多岐93-1
10:00~18:00(※10~2月は17:00まで) 不定休のため、お越しになる際は事前にご連絡ください。
0853-86-3452
あり
※データ・写真など上記情報は記事作成時点のものです。
※臨時休業や営業時間の変更の可能性がありますので、お出かけの際は、最新情報はお店の公式HPや公式SNS、直接店舗にお電話ご確認ください。
※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、施設へお出かけの際は、鳥取県・島根県や各自治体が発表する最新情報、要請などをご確認のうえ、手洗いやマスクの着用、人と人との距離の確保など基本的な感染防止対策(新しい旅のエチケット)を徹底していただくようお願いします。
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shimanekurashi
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レトロ建築や喫茶店、美術館巡りが好きな夫婦。 山と田んぼが目の前!自然に囲まれて暮らしています。 山陰まんなかで行ってみて良かったところ、おすすめスポットを紹介しています。
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