山陰まんなか観光局

ココビトの綴り 山陰まんなかアンバサダーが綴る 届けたいココへの思い San`in Mannaka Tourism Bureau presents [COCOBITO no TSUDURI]
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オープンは週に1度、境港の週末カフェ「きみの喫茶室」

皆さんは「週末カフェ」という言葉を聞いたことがありますか?

これは、普段は別の仕事をしている方が、週末の休みにだけ営業するカフェのこと。

自宅の一部を改装してカフェとして使ったり、既存の店舗を間借りしたり、レンタルスペースを活用したりと、スタイルはさまざま。最近、じわじわと増えてきている営業形態のひとつです。

今回ご紹介するお店も、週に1度だけオープンするカフェで、「週末カフェ」に近い存在かもしれません。

こちらに「食養生」をテーマにしたモーニングがあると知り、さっそく足を運んでみました。

どうぞ、最後までお付き合いください。

(中はカフェ、でも外観は美容室。戸惑う方もおられるはず!)


私が訪れたのは、2025年6月末に境港に新しくオープンした「きみの喫茶室」です。

海の街らしく、落ち着いた青が目をひく外観。屋根に残る文字が教えてくれるように、ここは昔、美容室だった場所です。

その前は飲食店として使われていたそうで、建物自体は築100年の歴史を持つのだとか。

そんな歴史の詰まった空間をリノベーションして生まれたのが、このカフェです。

(大きな鏡やアーチ窓はそのままに、美容室の面影が残る店内)


お店の中の様子がこちらです。
店内には、昭和レトロの懐かしい品々から、味わい深いアンティークの食器や雑貨など、さまざまなものがショーケースや棚に並んでいます。 こちらは後ほどご紹介しますね。

(コーヒー豆が収められたフローラガラス瓶にも、荒谷さんのセンスがさりげなく光っています。)


綺麗に並べられたコーヒー豆の瓶の向こうで作業をしているのは、きみの喫茶室の店主、荒谷圭香(あらたに けいこ)さん。

普段はコーヒー専門店「ラバールロースタリー(Labar ROASTERY)」で働きながら、週に2日は玉造アートボックスの2階にある、知人と共同運営する雑貨店へ。

そして週に1度だけ、こちらの場所でカフェを開いています。

一見すると毎日忙しそうですが、「仕事をしながら、好きなことを無理なく続ける」。

それが、彼女にとってのちいさな楽しみなのだそうです。

カフェのメニューを見せていただきました。

厳選された豆で淹れるコーヒーには、コーヒー専門店で働く荒谷さんならではのこだわりが感じられます。豆の種類から焙煎度まで、丁寧に記されていました。

メニューの一番下にあるのは、昔の喫茶店の空気感がよみがえるような「レイコー」。

昭和の時代、喫茶店ではアイスコーヒーのことを「冷コー(レイコー)」と呼んでいたんですよね。懐かしく感じる方も多いのではないでしょうか。

(かき氷は、天候を見ながら10月上旬頃まで提供される予定です)


コーヒーのほかには、クラフトコーラやアイスチャイ、生絞りレモネード、新生姜のジンジャーエール、さらに暑い日に嬉しいかき氷もあり、どれもテイクアウト可能です。

「食養生」をテーマにしたモーニング

(メニューの横には、使われている食材の効能がわかりやすく記されています)


そしてこちらが、今回私が気になっていた「食養生」をテーマにしたモーニングメニューです。

食養生とは、ざっくり言えば「日常の食材が持つ“働き”を意識して、食事に取り入れることで心と体を整える」こと。

カフェで薬膳の要素が取り入れられたモーニングがいただけるなんて、ちょっと珍しいですよね。

実は荒谷さん、現在漢方スクールで漢方の歴史から薬膳・養生の理論、そして日常への取り入れ方を幅広く学んでいるそう。

そのきっかけとなったのが、ある漢方の先生との出会い。

「薬膳は難しそう」という先入観をやわらげ、これまで知らなかったことや、新たな視点を教えてくれたのが、医学博士でもある「漢方ひとしずく」の仲宗根先生でした。

西洋医学や細胞生物学の専門家である医学博士が語る、東洋医学の漢方や薬膳の世界。その奥深さと面白さに心を動かされ、自分の健康のためや、お店で提供するメニューに役立てようと、先生のスクールに通い始めた荒谷さん。学びを深めるうちに、「身近な食材や旬の食材の持つ力と、自分の知識を活かして、体にやさしい食事をお客様に届けたい」という、そんな思いが芽生え、この“養生モーニング”が生まれました。

こちらが私の選んだ「夏の養生モーニング」。
ベーグルサンドは2種類あり、好みのものを選ぶことができます。

白いお皿には豚の角煮とズッキーニのベーグルサンド、夏野菜と木の実のサラダ、フルーツは一口サイズにカットしたピオーネとオレンジがついています。

スープは地鶏つみれと木の子と塩麴のスープ。

飲み物は、きみの喫茶室スペシャルコーヒー「きみのブレンド」。

(硬いパンは苦手な方は、食パンも選べるようになっています)


使われているのは、境港にある「小さなベーグル屋 torico」のベーグル。

国産小麦と天然酵母で作られた生地は、もっちりとしていて、噛むほどに小麦のやさしい甘みが広がります。具材にはズッキーニと豚の角煮を挟み、甘辛いタレと粒マスタード、そしてバターが絶妙に調和した、満足感たっぷりの一品です。

(スープには日本の和食器ブランド白山陶器が使われていました)


地鶏のつみれは、驚くほどふんわりとした食感。

そのやわらかさの秘密は、中に山芋が入っているからだそう。

塩麴ときのこの旨味が相まって、やさしくまろやかな味わいに仕上がっています。

今回の“夏の養生モーニング”には、夏の暑さをやわらげ、弱りやすい胃腸をいたわる作用のある食材が中心に使われていました。

どれも特別なものではなく、身近な食材ばかり。

そんな食材に薬膳の要素が含まれていると知り、なんとも不思議な気持ちになりました。

10月からは、仲宗根先生の監修で、本格的に季節の養生モーニングの提供が始まります。秋の養生モーニングでは根菜のスープ、冬には葛根湯を取り入れたスープが予定されているそうですよ。どうぞお楽しみに。

コーヒーとかき氷もいただきました

(イギリスの陶磁器メーカー「Denby」のカップ&ソーサー。これもヴィンテージものなんです。)


「きみのブレンド」は中煎りのブラジルと中深煎りのグァテマラをブレンドしたコーヒー。

香ばしさとまろやかさがほどよく調和し、ベーグルとの相性も抜群でした。

10月頃まではかき氷も楽しめます。

こちらは、「あいがけブルーベリー&マンゴーパイナップルのかき氷」

(かき氷に琥珀糖のトッピングは珍しいですよね♪)


かき氷には、ブルーベリーソースとマンゴーパイナップルソースがたっぷり♪

ブルーベリーソースは、荒谷さんのご実家で実ったブルーベリーを使った自家製です。

トッピングの琥珀糖も手作りとのこと。生のブルーベリーも添えられた、なんとも贅沢なかき氷です。

琥珀糖は乾燥時間を短くすることで、外はシャリシャリ、中はゼリーのような食感に。

氷の中にはバニラアイスやドライフルーツが隠れていて、ひと口ごとに異なる味と食感が楽しめる、満足感のあるひと品でした。

店内はこだわりアンティークがたくさん

(お店の内装は、専門的な工事を除き、荒谷さんとご主人のお二人でリノベーションしたそうです)


では、改めて店内のご紹介を。

「きみの喫茶室」の魅力は、コーヒーやモーニングといった食べ物だけではありません。

店内に並ぶ商品は、荒谷さんが趣味で集めたコレクションがずらり。

ヴィンテージ品はもちろん、なかには100年以上前のアンティークの物もあるそうです。

日本はもちろん、ヨーロッパやアメリカなど、さまざまな国から集められた品々が並んでいます。

「新品のアイテムとはひと味違う魅力があって、素敵だな、可愛いなと思うものは、時代に関係なく惹かれてしまうんです。」と荒谷さんは話します。

皆さん、このグラスに見覚えがありませんか?

キリンレモンのレイモン・ペイネのグラスや、三ツ矢サイダーのドレミファグラスなど。

年齢がバレてしまいそうですが、私はデザインを見てすぐにわかりました。

昔懐かしい、ノベルティグラスです。

こちらはおよそ1970年代の磁器タイル。海外のプールで使われていたそうです。

(イートインのときは、左側の棚から好きなカップ&ソーサーを選べるのがちょっと嬉しい)


深川製磁やノリタケ、Fire-King(アメリカ)、BOCH(ベルギー)など、1960〜70年代のアンティークなカップ&ソーサーが並ぶ棚は、見ているだけでも楽しくなります。

(カブトムシのマークが目印のSOGA GLASS(写真中央))


琥珀色のブランデーグラスは、1970~80年代のSOGA(曽我ガラス)。右にあるのは1990年代のエジプトガラスの香水瓶だそう。

こちらは、1970年頃に西ドイツやオーストラリアで生産されたラインストーンやスワロフスキーを用いた、荒谷さんのハンドメイド作品です。

長い時間を経て、こうして新しいかたちに生まれ変わると、ひとつひとつに物語があるような気がしてきます。

そしてこちらは、約100年前にブローチ用に作られた陶器製カボション(陶器で作られた小さなドーム型の装飾パーツ)。窯元で長く保管されていたものがオークションに出品されているのを偶然見かけて、一目惚れで購入したそうです。

荒谷さんがそっと手にしているのは、アンティークの帯留め。

雑貨に詳しくない私でも、つい足を止めてじっくり眺めたくなるものばかりでした。

きっと、ヴィンテージやアンティーク好きにはたまらない空間だと思います。

「美容室」の看板を受け継いだ荒谷さんの想い

外壁は青碧色(せいへきいろ)に塗り直されていたものの、看板がそのままになっているのが気になった私。

看板を付け替えていないことに「どうして?」と疑問が湧いたのですが、実際にお客様からもよく聞かれることがあるそうです。

「“かつて『きみ美容室』だった”というしるしを、どうしても残しておきたくて……」

そんな荒谷さんの想いを、そっと聞かせてもらいました。

「きみ美容室は、義母が美容師として長年働いていた場所です。もともと美容室を経営されていた“きみ先生”が引退された後も、店名はそのままに義母がお店を引き継ぎ、72歳で自身の店として独立しました。地元のマダムたちから多くの指名を受け、忙しく働いていた義母ですが、独立から1年ほど経った頃、病気が見つかり、治療に専念するため仕事を続けることができなくなってしまいました。」

美容師として誇りをもって仕事に向き合い、お客様のこともとても大切にしていたお義母さんの姿を、そばで見てきた荒谷さん。

しかも、自身のお店としてようやくスタートを切ったばかりだったこともあり、「本当に悔しかったはず」と語る荒谷さんの声には、言葉にしきれない思いが込められているように私は感じました。

そんな中、お義母さんからこんな言葉をかけられたのだそうです。

「けいちゃん、カフェやりたいって言ってたでしょ?きみ(美容室)を使うといいよ、あなたたち夫婦にあの場所あげるから」と。

「いつか自分でカフェを開きたい」そんな夢をずっと抱いていたことを知っていたお義母さんの言葉に、荒谷さんは背中を押されたのだといいます。

「いままで義母や、きみ美容室さんが大事にしてきたもの、仕事へのプロ意識も含めて、『流れてきた時間を場所と一緒に大切に引き継ぎたい』、と、その言葉をもらった時に自然と思いました。」

それが、喫茶室のはじまりでした。

「“人生の先輩方から受け継いだ場所”という気持ちでいるため、その象徴である看板やロゴはそのまま残しておきたいと考えました。」荒谷さんは話します。

店名は、名前は幾つか候補があったそうですが、いつかお店を持つ時に「喫茶室」とつけるのは以前から決めていたのだそう。

「義母からお店を引き継ぎ、この場所でお客様をお迎えすることを改めて考えた時に、一番しっくりきたのは『きみの』でした。」

美容室時代お客様だった方にも来ていただきたい、地元に根付いた場所でありたいという気持ちを込めて。

そして、「私が一杯の珈琲を淹れる時間は、きみだけの為に」

喫茶室で過ごす時間が、来てくださる方にとって心地よい自分時間でありますように。

きみの喫茶室にはこの2つの想いを込めているそうです。

「毎日営業しているわけでもなく、メニューも豊富とは言えないお店ですが、そんな中で営業日に合わせて、わざわざ足を運んでくださる方には、感謝の気持ちしかありません。」

喫茶室で過ごす時間、一杯の珈琲を飲む時間だけでも、心穏やかにくつろいでいただけるような場所にしていきたい。

それが、荒谷さんの願いです。

いかがでしたか?

美容室だった頃の面影を残しつつ、素敵な雑貨に囲まれた店内には、荒谷さんの想いと温もりが静かに息づいている「きみの喫茶室」。

昭和レトロからヴィンテージまで、なつかしい品々に心躍らせながら、モーニングやコーヒーを楽しむひととき。

皆さんもぜひ、味わってみてくださいね。

きみの喫茶室
住所
鳥取県境港市末広町78
営業時間
10:00〜16:00
定休日
Instagramをご確認ください。
公式サイト
https://www.instagram.com/kimino_kissashitsu/
駐車場
1台(停められない場合は近隣の駐車場を利用)
※データ・写真など上記情報は記事作成時点のものです。
※臨時休業や営業時間の変更の可能性がありますので、お出かけの際は、最新情報はお店の公式HPや公式SNS、直接店舗にお電話ご確認ください。
※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、施設へお出かけの際は、鳥取県・島根県や各自治体が発表する最新情報、要請などをご確認のうえ、手洗いやマスクの着用、人と人との距離の確保など基本的な感染防止対策(新しい旅のエチケット)を徹底していただくようお願いします。

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山陰の魅力を食を通じて伝えていきたい。 ほんの少し笑いの小ネタも添えて(・Θ・)
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