たたら製鉄の時代を感じられる!「和鋼博物館」で玉鋼に触れてみよう
最近TVなどでも紹介されて「たたら製鉄」に興味がある方も多いのではないでしょうか。
安来市に、たたら操業の歴史~現代の製鉄工業のことを分かりやすく展示している「和鋼博物館」があります。
模型や絵図や実際に使われていた道具類が詳しく展示されており、たたら製鉄のことを知りたければまずこちらへ来るのがおすすめです!
鉄のかたまり…鉧(けら)を完成させるまでにはたくさんの工程がある
たたら操業で作る鉧。この鉄のかたまりの中に、最も優れた品質の「玉鋼(たまはがね)」が含まれています。
鉧を完成させるまでには、たたらの炉に火を入れて3日3晩かかります。
たたら操業の責任者「村下(むらげ)」を中心に、交替で必ず誰かがそばに付き砂鉄と木炭を入れ続け、鞴(ふいご)を使って風を送り込みます。
このたたら吹きは、最盛期には年間で約60回行われていました。3×60日で180日ですが、火を入れるまでにも色々と準備があります。
操業で鉧(けら)を作るのに必要な物
①砂鉄・・・山を削って水路に流しながら(鉄穴流し(かんなながし)という方法)質の良い砂鉄を集めます。
②木炭・・・山で木を伐採して作ります。木であればどんな種類のものでもいいわけではありません。松、栗、槙(まき)が良いとされていました。
③炉・・・なんと炉は毎回新しく土台から作ります(鉧を取り出す際に壊してしまうため)。
※鉧(けら)…たたらの炉底にできた鉄塊。炉を壊して引き出します。重量は1回で2.5~3.5トン。鋼、鉄、銑(ずく)などが含まれています
館内資料より参照
同じ人たちが全工程に携わるわけではなく、工程ごとにきちんと分業体制が成り立っていました。
体験を通じてたたら製鉄に思いを馳せる
館内は1階と2階に展示室があります。
時系列で鑑賞できるようになっていて、1階の展示室では「たたら製鉄」に関する資料や道具類、模型展示を見ることができます。
中でも目を引くのがフロア中央に置かれた天秤鞴(てんびんふいご)と炉です。実際にどのくらいの大きさで行われていたのかが分かります。
なお、エントランスホールには実際に体験できる天秤鞴が置いてあります(後半に詳しく体験した様子を載せています)。
2階は体験できる展示がたくさん
2階には、鋼の音色を楽しむコーナーや鉄穴流しの砂(砂鉄)の重さを体験できるなど、様々な展示が用意されていました。
その中でも気になったのが、主に刀鍛冶のときに使われていた差し鞴。
小さな椅子に座って持ち手を押したり引いたりすると、送風口から出た風で風鈴がクルクルと回って風量がわかる仕掛けです。鉄製のカランコロンという心地よい音が響きます。
シンプルな構造ですが、その時代の素材で空気が漏れないように作るのは大変だったと思います。
明治時代以降の製鉄の歴史の展示について
では最後の展示室へ。ここは明治時代以降の製鉄の歴史が紹介されています。
西洋からの近代製鉄技術が導入され「たたら製鉄」が徐々に衰退していく様子が分かります。また商業面でどのように鉄が流通していったかなど、さらに刀剣の展示も豊富にあります。
玉鋼と日本刀を持たせてもらう!
和鋼博物館では玉鋼と日本刀を実際に手に持ってみることもできます(※こちらの刀は刃がついていません)。
展示ケースから出してもらうためにスタッフの方を呼びます。手袋をつけて、さぁ、持ってみます。
まずは玉鋼から~とスタッフの方から手の上に置いてもらうと、ズシっと重みがあり驚きました。見た目は軽石のように見えますが、手のひらサイズでもこんなに重さがあるとは…。
色が光って見えますが、玉鋼自体には色はついておらず、シャボン玉と同じように表面で反射する光と内面で反射する光が重なりあってキラキラ見えるとのことでした。
次に、日本刀を持たせてもらいました。人生初です!
柄がない刀のため少々持ちづらいです。そして面白い工夫が施されていて、片面は刃が磨かれていて、もう片面はそうでない面になっていました。磨かれている面には刃紋が見えます。
刀鍛冶職人は形を成形するまでが仕事で、磨くのはまた別の職人がいました。たたら製鉄にしてもそうですが、分業制が細かいところまで浸透していた時代だったのですね。
スタッフの方に、ひとつ豆知識を教えてもらいました。日本刀は刃が平面ではなく山型になっていますが、その山の高い部分を鎬(しのぎ)と呼び、慣用句で使う「しのぎを削る」はここから来たようです。
博物館へお越しの際は、ぜひ玉鋼と日本刀の重さや刃紋など体感してみてください。
天秤鞴を右足で踏んで左足で踏む
一周まわって再び1階エントランスホールへ。
受付左側の階段脇にドンと鎮座している木製の大きな物体。それがたたら製鉄で重要な風を送る装置である天秤鞴です。天秤鞴が発明されたことで、たたら製鉄が始まったとさえ言えるかもしれません。
当時は一時間の交替制で、この役割を番子と呼んでいました。諸説ありますが「代わり番こ」の由来だそうです 。実家に足踏みをする健康器具がありますが、ほんの3分くらい体験しただけでもその重労働さが身にしみました。
こんな人にオススメの博物館です
- たたら製鉄に興味のある人
たたら製鉄の歴史が網羅されている博物館です。日本の鉄生産についてはその歴史のはじめから安来市が登場したわけではありません。どのような流れで現在まで続く「ヤスキハガネ」ブランドが形成されていったのかが分かります。
- 職人によるものづくりに興味がある人
たたら製鉄は山内(さんない)と呼ぶ組織で見事な分業制で行われていました。その規模、およそ170名は属していたと紹介されています。さらにその周辺に販売する人、輸送をする人などを含めればもっと多くの人が関わって成り立っていました。一人一人の仕事は職人でありながら、全体を見ればグローバル企業さながらの事業体と言っても過言ではないでしょう。
- 刀剣を鑑賞するのが趣味な人
たたら製鉄によって生み出された一級品の玉鋼(たまはがね)は日本刀を作るためにありました。大人気アニメ『鬼滅の刃』や戦国武将ブームなどで刀剣に興味を持つ人が増えていますね。刀剣にスポットをあてた展覧会も毎年どこかで開催されています。和鋼博物館ではスタッフ立ち会いの下に日本刀を持つ体験コーナーもあります。奥深い刀剣の魅力の一端も感じられる博物館です。
- 島根県の郷土史に関心のある人
TBSで放送されて一大ブームとなったドラマ『VIVANT』の主人公は島根県でたたら製鉄に関わってきた由緒ある家の出身として描かれていました。安来市を含め、雲南市と奥出雲町を合わせて「鉄の道文化圏」として各地に様々な施設があります。和鋼博物館で製鉄の歴史に関心を持ったならば、是非ほかの場所も巡ってみてください。私たちは、たたら製鉄に従事していた人々が拠り所にしていた金屋子(かなやご)神社に次は行ってみたいと思っています。
和鋼博物館はゴールであって入口だ
スタジオジブリの宮崎駿監督作品『もののけ姫』が公開されたのは1997年7月です。私は大学生でした。そこに登場した鉄を作る「たたら場」なるものは初めて聞いた言葉でした。そのモデルとなったものが何かも知りませんでした。
和鋼博物館が開館したのは1993年(平成5年)4月です。しかしその前身となる和鋼記念館は1946年に開設されました。現在も展示されている多くの貴重な品々は、戦後間もない時期であったにも関わらず保護・保存しようと尽力された方々の賜物です。まさにハガネの町に相応しい博物館です。
博物館という場所に来るとよく思うことがあります。専門的分野の詳細が分かるとともに、新しい疑問が生まれるということです。例えば、どうして中国地方では良質の砂鉄が多く取れたのだろう…など。知っている人にとっては当たり前の知識かもしれませんが、博物館はまとめられたゴールのような場所であるとともに、新しい扉を開く入口でもあるのです。このことについて、もっと知りたいと思わせてくれる場所です。
和鋼博物館は「たたら製鉄」を紹介する全国でも珍しい博物館です。しかしながらそこから得られることは「たたら製鉄」だけではありません。同じ展示物でも見る人によっては引っかかるポイントが違ってきます。ゆっくり見て回れば一時間半以上は滞在できると思います。和鋼博物館で新しい驚きの体験を味わってみてください。
- 住所
- 住所
- 島根県安来市安来町1058番地
- 営業時間
- 営業時間
- 9:00~17:00まで(最終入館は16:30まで)
- 定休日
- 定休日
- 水曜日(祝日と重なった場合は翌日)
- 電話番号
- 電話番号
- 0854-23-2500
- 公式サイト
- 公式サイト
- http://www.wakou-museum.gr.jp/